愛人の素振りがつれなければつれないだけ、そのすべてを我がものにしたいと願うのは、自信家の男にはよくあることである。 それがわかっているのかいないのか、瞬は、いつまでも氷河に無言の抵抗を続けた。 だが、琴瑟相和していく互いの身体が、氷河に、瞬を完全に諦めさせることをしない。 瞬と出会ってから、さほどの時をおかずに、氷河は瞬の虜になってしまっていた。 そして、恋に落ちてしまえば、強大な帝国の王もただの男に過ぎない。 瞬に笑ってもらうということが、今の氷河の人生の新しい目的で、その目的を叶えるために、彼はどんなことでもした。 山海の珍味を集めた豪華な食事、華麗な衣装、高価な宝石。 そして、甘い言葉と、瞬の身体を喜ばせるための奉仕と献身。 だが、大帝国の王の心が自分ひとりに向けられていることを知っていながら、瞬は、決して氷河に打ち解けようとはしなかった。 「おまえは、どうしたら笑ってくれるんだ?」 尋ねても、瞬は答えない。 氷河は、瞬の身体に愛撫を加えながら、不様な弁解をすら始めるのである。 「世は乱れていた。打ち続く戦乱に民は疲弊していた。おまえの国は、俺の国への服属を拒み続けた。そんな国をひとつでも残しておいたら、それに倣おうとする者が出てこないとも限らないだろう。大陸はひとつになることが必要だった。必要だったんだ」 「…………」 聞こえているはずの言葉に、瞬からの返答はない。 氷河は、瞬の声を聞くために、己れを瞬の中に突き立てることしかできなかった。 |