氷河は、荒れ狂う北の海で、頼りなく揺れる小さなボートの上に立っていた。

まるでナイフで切りつけるように冷たい風が、幾度もその頬を打つ。
風は、悲鳴のような声を響かせながら、冷たい水と雪と氷の粒とを空に舞い上げ、再びそれを氷河の上に降り散らせることを、飽きもせずに繰り返していた。


船の上に、間もなく死にゆく人の姿がある。


(氷河は必ず幸せになるのよ。きっと……きっと、世界一幸せになれるわ)


氷河は、彼女を、じっと見詰め続けていた。





Fin.






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