絵梨衣は、全てを知ってしまったらしかった。
なぜその秘密が知れてしまったのかと戸惑う瞬に、絵梨衣が微かに肩をすくめてみせる。

「今朝、氷河さんが来たんです。ここに」
「え?」
「私、一瞬、昨日のこと、謝りに来てくれたのかと期待したのに」
「氷河が……?」

「私の顔を見るなり、すっごい恐い顔して、『瞬は俺のものだ、手を出すな!』、ですって」
「は……?」

瞬は、一瞬、絵梨衣が何を言っているのか――というより、氷河が何を言ったのか――理解できなかったのである。

絵梨衣が、瞬には理解不能な氷河の言動を、懇切丁寧に解説してくれる。
「氷河さん、私の気持ちになんか全然気付いてなくて、あろうことか、私が瞬さんに近付こうとしてるって思い込んでたみたい」

「あ……あの……」
瞬は、言うべき言葉を咄嗟に見付け出すことができなかったのである。


氷河の不機嫌の理由。
それは、瞬が絵梨衣の恋に協力しているせいでも、瞬が絵梨衣に妬いてみせないことでもなかった――らしい。

自分が絵梨衣に好意を持たれている可能性など、氷河は全く考えていなかった――のだ。






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