「朝になれば夢が覚めるというのなら、永遠に夜が明けなければいい」
囁いて、氷河は彼に唇を重ねた。
彼の唇は、柔らかな花びらのように温かく、血が通っていた。

「あ……」
氷河に強く抱きすくめられて、花は怯え、震えている。

「なぜ震えている」
「…………」
「俺はおまえを手折るつもりない。ただ──」
ただ、その姿を愛で、触れていたいだけなのだと言いかけて、氷河は言葉を途切らせた。

生身の少年は、絵の中にいる時とは違う力を有していた。
そして、それは、氷河の身体の奥に、熱い――熱球のような――塊りを生ぜせしめた。
「そんな怯えた目をされると、期待に沿ってやらなければならないような気になってしまうじゃないか」

少し不自然に笑ってみせる。
冗談のつもりだった。

だが、その笑いが即座に凍りつく。
自分の中にあるものの正体を、氷河は知った。
「そうか……俺は、おまえのすべてを俺のものにしたかったらしい」

言うなり、氷河は彼を抱きあげた。
彼は驚くほど軽かったが、確かに彼には花びらや枝葉で作られたものとは違う重みがあった。
「俺のために形を創ってくれたんだろう? ピュグマリオンが恋焦がれたガラテアのように」

「や……っ!」
氷河の腕の中で身じろぎ、彼は小さな悲鳴をあげた。
まるで、誰かにその存在を知れては困るというように小さな、溜め息のような悲鳴。
氷河は、それを唇で封じた。


絵の中から現れた少年は、氷河の下で、生身の人間と同じように喘ぎ、反応し、身悶え、そして、泣いていた。






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