氷河が、瞬の憂い顔をよく見かけるようになったのは、その朝からだった。
瞬の何が変わったというのではないし、瞬は、これまでと同じように仲間たちに笑顔を向けてはくるのだが、その笑顔がなぜか長続きしないのである。

生死を共にして闘ってきた仲間たちにも言えないような悩み事を抱えているらしく――瞬の憂いは、日を重ねるごとに深くなっているようだった。


「おい、紫龍。瞬の奴、あの花見の日以来、どこかおかしくないか? 最近、部屋に閉じこもっていることが多いようだし、何かあったんじゃないのか」

何と言っても、花と酒に酔い潰れてしまった氷河からは、あの夜の記憶がほとんど失われてしまっていた。
花はもちろん、酒にも酔うことのない長髪男なら、そのあたりのことを知っているかもしれないと考えて、氷河は彼に尋ねてみた。

「…………」
氷河に問われた、老酒の国の元住人が、一瞬、顔を歪める。

「――おまえは、いい気分で酔っていたようだったな」
「俺は、瞬の話をしているんだが」

紫龍は、どうやら、その瞬の話をしたくないらしい。
「特に何もなかったと思うが」
そっけない答えを残して、彼はそそくさと氷河の前から姿を消してしまった。

「……?」

何かが――あの夜、瞬が気鬱の病に罹るような何かがあったことだけは確かなようである。
そして、瞬はもちろん、紫龍もそれを知っているのに、仲間に知らせることを避けようとしているようだった。


いったい何があったのかを瞬に問い質してみようかと氷河が考え始めた頃に、その手紙が城戸邸に届けられた。






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