「こ……殺してやる……」 瞬の返答が、それまで驚愕の混じっていた氷河の憤りを、純粋な憤激に変える。 瞬を慰撫しなければならないという思いより、その不届き者への怒りの方が、今の氷河の中では、はるかに強く大きかった。 「氷河……?」 「殺してやる……! どこのどいつなんだ。瞬、おまえ、何か憶えてないのか!」 「……何も言わなかったし、お酒臭くて、恐くて……」 瞬が、まるで自分自身が責められているかのように、力なく項垂れる。 瞬のそんな様子を見せられているうちに、氷河の怒りは、本当に瞬自身に向いていってしまったのである。 「なぜ、俺を呼ばなかった !? 」 「…………」 「瞬っ!」 氷河の怒声に、瞬は強く唇を噛みしめた。 そして、氷河に切り返してくる。 「呼んだよっ! 何度も、氷河の名前、呼んだ! 来てくれなかったのは氷河の方じゃない!」 「瞬……」 「あっち行って! 氷河なんか、大っ嫌い!」 「瞬……」 半分涙の混じった声で瞬に責められて、氷河はやっと、自分が、こういう場合にとるべき対応の中で最も不適切な選択肢を選んでしまったことに気付いた。 自分が万事に優先させるべきことは、瞬の傷心を癒し、慰めるべく努めることだったのに――と後悔しても、既に遅い。 そして、自分の落ち度に気付いてもなお、氷河の怒りは静めようがなかった。 瞬の声に押しやられるようにして出た、ひんやりと冷たく長い廊下で、氷河は自身の拳を握りしめた。 「殺してやる……! 必ず犯人を見付け出して、この手で殺してやる!」 すべてを奸賊のせいにすることで、氷河は、半ば無意識のうちに、自省することを避けた。 今は、自身を省みて消沈することより先に、しなければならないことが、氷河にはあった。 否、氷河は、あると思おうとしたのだった。 |