氷河たぬきが剥製たぬきにされてしまってからもずっと、瞬たぬきは、人間が往来からいなくなる夜になると、氷河たぬきの許に通い続けました。 雨の日も風の日も、瞬たぬきは、人間に捕まる危険を冒して、お山から、氷河たぬきの許にやってくるのでした。 瞬たぬきはとても可愛いたぬきでしたので、たくさんのたぬきたちがケーキやチョコレートを持ってきてくれましたが、氷河たぬきの辛い運命を思うと、大好物のケーキもチョコレートも、瞬たぬきの喉を通りません。 ろくに食べ物も食べずに、それでも毎日危険を冒して、氷河たぬきのもとに通う瞬たぬき。 瞬たぬきはすっかり痩せこけてしまい、あんなに綺麗だった毛並みも、今ではげしょげしょ、程よく張っていた腹鼓も、今ではぺったんこ。 とても、ついこの間まで、お山でいちばんの美形たぬきだったとは思えない姿になってしまっていました。 やがて、たぬき仲間たちは、瞬たぬきは氷河たぬきに死なれて、頭がおかしくなってしまったのだと噂して、あまり瞬たぬきに近寄らないようになりました。 氷河たぬきを失い、仲間たちにも見捨てられて、けれど、瞬たぬきは、それでも氷河たぬきの許に通うのをやめません。 そんな瞬たぬきを、氷河たぬきは、ずっと心配し続けていました。 そして、やがて、氷河たぬきは、気付いたのです。 剥製たぬきになってしまった自分にも、ただひとつだけ、瞬たぬきのためにしてやれることがあるということに。 氷河たぬきが瞬たぬきのためにしてやれる、ただひとつのこと。 それは、瞬たぬきを、みじめな剥製たぬきから解放してやることでした。 |