「ここから歩いて数分のところに、ちょうど新築の団地があって、その最上階の部屋を購入したんだ。俺の引越し荷物は瞬だけだから、さっさと引越しを済ませてしまいたいんだが」
「それは団地じゃなくて、マンションって言うんだよ、氷河。でも、それじゃ、家具なんかはまだ揃ってないの?」
「昨日、ダブルベッドを買った。人間、寝るところさえあれば、あとはどうにかなるもんだ」
「うん、そうだよね。余計なものなんていらないよね。僕も氷河がいてくれれば、他は何にもいらないもの」
「俺も、欲しいのは瞬だけだ」
「氷河ったら、口がうまいんだから」
「言わなければ通じないんだろう?」
「そりゃ、そういう時もあるけど……」



「………………………………」
氷河と瞬の視界と意識から、紫龍の存在は綺麗さっぱり抹消されているようだった。

年齢差60歳をものともせずにいちゃつきまくっている幸せなカップルの前で、紫龍は、ひとり呆然と、自身の人生の破滅への序曲を聞いていたのである。





Fin.





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