旅は、終わりに近付いていました。

人界の果てに近付くと、人里も少なくなり、たまに出会う人間たちは、ヘリオスの館が近いことを、ヒョウガたちに教えてくれました。
二人は野宿をすることが多くなり、そして、夜になるたびに――シュンは泣いていました。

シュンは涙を耐えることができなくなると、ヒョウガに気取られないようにと、仮寝の場を離れるのですが、シュンの気配が感じられなくなると、ヒョウガはどうしてもシュンを捜しに行かずにはいられなくなるのです。
見付けだしたところで、涙に暮れているシュンに胸を痛めることになるだけだとわかっていても、ヒョウガは、シュンが自分の側にいないことが不安でなりませんでした。

「シュン、故郷が懐かしいのか」
ヒョウガがそう尋ねると、シュンは涙を拭って、
「いいえ。ヒョウガの運命が悲しいだけ」
と答えます。

それが決して嘘ではないことを、ヒョウガは知っていました。
シュンが、自分の恋の報われないことだけを嘆いているのではないということは。

「俺は……おまえを嘆かせるほど不運でもないぞ。メロペ姫に会えた。おまえにも会えた。希望もある」

「メロペ姫がそんなに好き?」
シュンにそれを問われるのは何度目だったでしょう。

「この思いは、自分でもどうしようもないんだ。暗闇の中でも、姫の姿だけは見える。メロペ姫だけ、メロペ姫だけだ」

シュンを愛することができたなら、自分はどれだけ幸福になれるだろうと思いつつ、それでもヒョウガは、シュンに嘘をつくことはできませんでした。
それは、シュンへの気遣いでもありましたが、それ以上に――真実でもありました。
初めてキオス島の浜辺で出会った時のメロペ姫の澄んだ瞳が、どうしても、ヒョウガの恋の思いを他の誰かに向かわせてくれないのです。


「ヒョウガの思いが届くといいですね」
残酷にも思えるヒョウガのその言葉が、彼の誠意だということを、シュンはわかっているようでした。

シュンが無理に微笑んでそう言っていることは、目の見えないヒョウガにも感じとれていました。






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