その日以後――俺の許に瞬から連絡が入ることはなかった。
以前もらった電話の番号も非通知の設定になっていて、俺の方からは連絡の取りようがない。


俺は、瞬の何も知らない。
知っているのは、本名なのかどうかも怪しい『瞬』という名前と、絵の好みと鑑賞眼と、その姿だけ。
これで、いったいどうやって瞬を捜し出せばいいんだ !?


その夜以降、俺は、まるで初恋の相手にこっぴどく振られた中学生よろしく、腑抜けた状態で日々を過ごすことになった。
こんな時に、女の裸の絵なんか描いていられるはずもなく、仕事の方も完全にストップしてしまった。

何をしていても、何を見ても、思い浮かぶのは瞬のことだけで――瞬が最後に見せた、あの責めるような眼差しだけで――俺は、本当に何もできないでくの坊になってしまったんだ。

このまま瞬に二度と会えなかったなら、瞬に許してもらえなかったなら、俺は、俺の絵にも俺自身にも存在意義を感じられないまま、ひたすら時間だけを食い潰していくことになるに違いない。
俺は、出口の見付からない迷宮の中で、アリアドネの救いを見付けられずにさまようテセウスのようなものだった。






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