「けど……」
ヒョウガのその言葉は、一向に実現されなかった。

係累も経験も持っていない者が、自分の王朝を一から構築することは大変な難事業なのだろうとは思う。
まして、ヒョウガには理想があった。
その事業に、おざなりに取り組むはずもない。
それがわかっていたから、シュンはひとりで耐えていたのである。
ヒョウガに会えない毎日を、必死で。

それまで、大抵のことは我慢してきた。
貧しいことや親のないことは不運でも、ヒョウガに会えたのは幸運。
そんなふうなものなのだと、誰も何も恨むことなく、時に流されるように、シュンはそれまでの日々を生きてきたのだ。
そして、寂しさに耐えきれず――流されてばかりいることに耐えきれず――初めて自分の意思で、ヒョウガの側にいることを望み、神官になることを決めた。

それがなぜ、こんなことになってしまったのか――シュンには、本当に訳がわからなかった。


シュンは、これから自分が2年の時を過ごすことになる部屋の広い寝台に倒れ込んだ。
清潔で肌触りのいい上等の布に頬を埋め、この寝台はひとりでは広すぎる、と思う。
そして、この寝台の広さが、訪れることのない者のために広いのだということを思い出した。

(2年間も……ヒョウガに会えないんだ……)
そう思うと、勇気を奮い起こして神官になることを決めた、あの必死の思いは何だったのかと悲しくなる。

シュンの身の振りを考え、シュンを聖籍から抜くために、ヒョウガがそれをしてくれたことはわかっている。
だが、シュンは、2年も先から始まる何不自由のない暮らしなど、どうでもよかった。
シュンは、今――たった今、ヒョウガの側にいたかったのだ。

広い寝台に突っ伏して、シュンは声を忍ばせて、泣いた。






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