神殿の神官たちが、揃いも揃って、それを神だと信じていることに、シュンは驚いていた。

シュンとて、神の存在は信じていた。
人智を超えた能力を持つ存在がなかったならば、そもそもこの世界ができることはなかったろうと思う。
だが、昨夜、自分に暴力を加えていったものを神だと思うことは、シュンにはどうしてもできなかったのである。

「本当に、あれはネブ神様なんですか。そう思ってるんですか。神様が!」
神官たちは、シュンに、その暴力を光栄に思えと言う。

「神様が、あんなひどいことをするの……」
シュンの“根拠のない”反駁など、彼等の盲信の前には、まるで無力だった。

シュンの看護のために、神殿の塔の部屋に連れ戻された少女だけが唯一人、それが神だということに懐疑的だったが、その少女でさえも、夜の訪れと共に、シュンをひとりその部屋に残して神殿を出ていってしまった。
「ついててあげたいんだけど……神様のご機嫌を損ねることになったらまずいでしょう?」
そう言って。

もうあんな恐ろしい目に合うのは嫌だというシュンの懇願は、誰にも聞き入れられなかった。
結局シュンは、次の夜も、恐ろしい暴力が行なわれたその部屋に、ひとりで取り残されることになってしまったのである。

今夜は月もない。
窓には、星のかけらも瞬いていなかった。

“神”がそこから忍び込んでくるような気がして、昨夜あれほど必死になって開けようとした窓を、木製の落とし戸で固くふさぎ、シュンは寝台の端で震えていた。
神の一晩が人の永遠にも近いほどに長い時間だというのなら、もう“あれ”はやってこないはずだと、繰り返し自分に言い聞かせながら。






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