ヒョウガがバビロンの都にいなかった1ヵ月の間、神殿の塔の部屋に現れていた男が何者だったのかは、結局わからなかった。
ヒョウガは――多分に嫉妬絡みで――あの塔の部屋に忍び込んだ何者かの正体を懸命に捜索したのだが、その捜索の手は、結局すべて徒労に終わった。

「誰だったんだろう――ううん、何だったんだろうね……。僕が……神様をヒョウガの代わりにしようとしたから、神様が怒ってあんなことしたんだろうか……」
そう言いながら、しかし、シュンは、“彼”がそんなものではなかったことを知っていた。

“彼”は、本当に何もかもがヒョウガと同じだった。
匂いも、その温かさも、髪の感触も。
そして、彼は、ひとりでいることに負けてしまいそうになっていたシュンの心を、いつも優しく愛撫してくれた。

彼は、本当に神だったのかもしれない。
あるいは、もしかしたら、絶望に近いところまで追い詰められていた人間が作り出した幻だったのかもしれない。
そう、シュンは思った。

おそらく、人には、どうしても“神”を作らずにいられない時があるのだ。

「ヒョウガには神様は必要ないのかもしれない。でも、必要な人もいるんだ。それは人が弱いからなのかもしれないけど……でも、きっと人がそうするのは、生きていくためなんだよ」
「俺にはおまえがいるから、神は必要ないだけだ」

それが本当に神だったにしても、神でないものだったにしても、“彼”の出現は自業自得だったのだと自分を無理に説得し、ヒョウガは、あのひと月の間のことを諦めることにした。

無論、彼は、もう二度とシュンを他の誰かの手に渡すことはなかった。






Fin.






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