「瞬。相談があるんだが」

氷河にそう言われた時、いつもより濃い色を呈している彼の瞳を見て、瞬はなぜか妙な胸騒ぎを覚えたのである。

氷河に相談事を持ちかけられるのは、瞬は、それが二度目のことだった。
それは、瞬に限ったことではなかったろう。
氷河は何でも自分一人で決めるタイプの男で、彼が他人に何事かを相談するということ自体が、滅多にあることではなかったのだ。

これは相当の重大事である。
瞬は、気を引きしめると同時に、氷河に仲間として頼られていることに幾許かの喜びを覚えつつ、
「何? 何でも相談に乗るよ」
と、少々気負い込んで答えた。

そんな瞬に素早くちらりと視線を走らせると、氷河は、一時の逡巡のあと、おもむろに彼の悩み事を口にした。
すなわち、
「実は、夕べ、俺は、自分の部屋のベッドで、俺が一青少年として健全な成長を遂げているがために、おまえとえっちがしたくてしたくてたまらない欲求にかられて、大いに苦悶することになったんだ。おまえ、俺のこの苦悶の解消に協力してくれる気はないか?」
――と。

「え?」
虚を突かれた格好で、瞬は僅かに顔をあげた。

それから瞬は頬を真っ赤に染め、真剣この上ない顔をしている氷河の前で、きっちり3分間もじもじしたあげく、
「氷河の馬鹿―っっ !! 」
と、大声で氷河を怒鳴りつけ、そのまま部屋から飛び出ていってしまったのである。

「しゅ……瞬 !? 」


『でも、これから僕に何か相談する時には、そんな肝心のところをごまかしたりしないでね』

氷河は、瞬の可愛らしいお願いに従って、肝心のところをごまかさず、かつ、誤解が生じないように、5W1H(いつ、誰が、どこで、なぜ、何を、どのように)を正確に盛り込んだ文章で、彼の相談事を瞬に伝えたつもりだった。

だが、氷河の気遣いは、どう考えても、その使用方法を間違えていた。
そして、激しく方向違いだった。


医者にも草津の湯にも治せない病気は、恋の病以外にも、世の中には数多く存在するのである。
世界に完全無欠の平和が訪れることがあったとしても、それらの病が、この地上から撲滅されることは、おそらく決してないだろう。






とっぴんぱらりのぷぅ






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