「トンボの共食いなんて、ヤゴのはよく聞くけど、成虫もするなんて、俺、あの時まで知らなかったんだよなー」
「まあ、トラウマになるのもわかる気がするが……。なにしろ、羽が散らばり、脚はもげ、頭が齧られて、あの大きい目玉も──いや、何でもない」
瞬が真っ青になっているのを見て、紫龍は、彼が言おうとしていたその先の言葉を、慌てて喉の奥に押しやった。

「あれ以来、俺は、瞬と一緒に秋の行楽を楽しめたことがない。どうしてくれる」
「おまえの秋の行楽は青カンだろ。部屋ん中でやってりゃいいじゃん」
「部屋の中でやるのは青カンとは言わん。俺がしたいのは、閉塞されていない場所で、誰かに見られる可能性にびくびくして感度の良くなっている瞬に×××して、瞬の×××を××しながら、○◇△□(以下、自主規制)」
「なななななんて汚らわしい〜〜〜っっ !! 」

城戸邸の玄関先で、辺りをはばからずに発せられていた氷河の無念の訴えを遮ったのは、一見年齢不詳に見える、ひとりの女性の尖り声だった。

2階にある客間から玄関ホールに通じる広い階段の中ほどで、彼女は、わなわなと全身を怒りに震わせていた。






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