そこは、小さな島だった。
総面積は、およそ70平方キロメートル。
八丈島と同程度の大きさの島である。
自然に恵まれ、気候に恵まれ、内陸部に生い茂る樹木には果樹が多い。
たんぱく質さえ確保できれば、食料には事欠かないだろう。

実際、この14年間、親父の親友は、外部への連絡を絶ったまま、この島で過ごしてこれたのだ。
14年前、ヘリをチャーターしてこの島に降り立った親父の親友は、無線機と発電機を持参していたらしい。
彼の行動を訝るパイロットに、彼は、いざという時にはそれで連絡を入れると告げたのだそうだった。
その連絡は、結局、14年後の今日まで、一度も入ることはなかったのだが。

命を永らえるだけなら、確かに、この島には十分な水と食料があった。
植物学者の彼は、アマゾンの奥地にも出向いたことがあるという話だったから、サバイバルに関する知識は、普通の人間より備えてもいただろう。

しかし、人は、病を得ることもある。
この島に降り立った時には健康体だったとしても、加齢による体力の衰えはいかんともし難いはずだ。
それに伴って気力も衰えているだろうから、少しは俺の説得に耳を貸してくれるのではないか――。

そんなことを考えながら、俺は白い砂浜を後にして、島の大部分を占める森の中へと足を踏み入れた――踏み入れようとした。
そして、その場に、棒立ちになった。






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