「なに、これ」
瞬の質問は至極もっともである。

「だから、性別占い」
星矢の答えは、説明にも何にもなっていなかった。

「性別なんか、わざわざ占わなくても、僕は男だよ」
瞬の怒りは、これまた至極当然のものだったが、
「そんな固いこと言わずに。俺たちもみんなやってみたんだから」
星矢は、瞬の怒りなど、意にも介さなかった。

どうあっても、星矢は、この占いに瞬を挑ませるつもりらしい。
星矢がその気になったら、これはもうテコでも動かせないことを知っている紫龍は、ふいに厳しい顔つきになった。
そして、言った。
「まあ、何だ。男性の体内でも女性ホルモンは分泌されるし、女性にも男性ホルモンはある。そういう見方をすれば、この世には、完全な男性、完全な女性というものはいないわけで、だから、どういう結果が出ようと問題はない」

紫龍の言葉に、氷河もまた真顔で頷いた。
「聖書では、アダムからイブが作られたことになってるが、生物学的には、男こそが女から作られるんだってことがわかっているしな」
「うむ。人間の脳の性分化は、男性ホルモンのアンドロジェンが作用した時に起こる。アンドロジェンが作用しなければ、人間はみんな女性になるわけで、そういう見地に立てば、男はみんな女の突然変異だ。男は女からできるものなんだ」

「紫龍や氷河みたいに面倒な理屈はわかんないけど、とにかくやってみろよ。面白いからさー」
真面目な口調の氷河や紫龍とは対照的に、星矢は至って能天気である。

そして、なぜか、瞬の怒りは、無責任極まりない態度で馬鹿げた占いを勧めてくる星矢よりも、真面目な顔をして訳のわからないことを言い募る氷河と紫龍に対して向くことになったのだった。
「――なんだか、僕の占いの結果が女性と出るのを見越しての事前フォローみたいだね」

少しばかり嫌味を含んだ口調で、瞬が氷河たちに探りを入れると、紫龍の口から意外な言葉が飛び出てくる。
「そんなことはないぞ。実際、俺たちの占い結果も“男性”ではなかったし」

「え?」
その言葉に、瞬は、急に毒気を抜かれたような気分になった。
と同時に、少しばかり、その占いに興味が湧いてくる。

完全に不審の念を消し去ることはできなかったが、それでも瞬は、とりあえずパソコンの画面に向かい、マウスに手を置いた。
そして、気乗りしていない雰囲気を演出しつつ、画面に映し出される設問に一つ一つ答えていく。

「へえ」
「ほう」
「そう思ってたのか」

「なに? 違うっていうの?」
一問回答するごとに、いちいち冷やかしを入れてくる仲間たちを、瞬は横目で睨みつけたが、画面に見入っている星矢たちは、瞬の睥睨に気付いた様子もない。

「問44、いったい誰がおまえのこと、『いい男』だなんて言ったんだよ! そこは『可愛い』だろ」
「瞬、問45と46、嘘をつくな。おまえ、夕べのことも忘れたのか? それから、問55の回答は、『知っている』だ。数は0だが」

「もう、黙っててよ! 気が散るじゃない」
外野の野次には苛立ちを隠せなかったが、そこまでしっかりチェックを入れられると、嘘の回答はできない。

瞬は、60問ある設問に20分以上の時間をかけて、正直に真実を答えざるを得なくなったのだった。






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