二人の話を繋ぎあわせると、つまりはこういうことだった。 つい数分前。 朝の身仕舞いを整えた氷河は、先に部屋を出ていった瞬を追って、ダイニングルームに向かおうとしていた。 その氷河の耳に、ふいにどこからともなく、 『氷河、邪魔するぞ』 というカミュの声が聞こえ、そして、氷河の記憶は途絶えた。 ──と、ここまでが氷河の説明である。 そして、カミュの説明は、 「あの世が退屈だったので、ちょっと遊びに来た」 ──と、これだけ。 もちろんカミュには、彼の自由にできる身体が現世に存在しないので、その つまり、今、氷河の身体の中には、二つの人格が存在するということのようだった。 二つの人格は完全に独立していて、多重人格とは異なり、主人格というものも存在しない。 二人が同時に身体を支配することはできず、記憶の共有もできないらしかった。 「カミュに身体をのっとられている間の記憶は残らないんだ。その時間だけ、ぷっつりと記憶が途切れる。あの馬鹿師匠が何かしでかすんじゃないかと、俺は心配で……」 不肖の弟子と馬鹿師匠、似合いの師弟というべきか、師匠が馬鹿なら不肖の弟子ができあがるのは当然と言うべきか、何にしても、氷河は、自身の記憶が途切れることが不安でならないようだった。 氷河は、自分の師匠を全く信用していないらしい。 12宮の闘いでは、問答無用で弟子を氷づけにし、ハーデス戦では、もう少し利口な立ち回り方もあったろうに、わざと悪役に身を堕とすことに酔っていたようなカミュを、信用しろと言われても、それは無理な話ではあったろうが。 深刻な顔で現状を憂う氷河に、しかし、彼の仲間たちの出した結論は、 「わざわざ、あの世からおまえを心配してくれたんだ。追い返すのは失礼だろう」 「腐っても黄金聖闘士だしなぁ」 「氷河、しばらく、不自由は我慢してあげて?」 ──だった。 かくして、馬鹿師匠と不肖の弟子の、珍妙この上ない同居生活(?)の幕は切って落されたのである。 |