紫龍が気をきかせて、星矢を連れ、ラウンジを出ていく。 部屋のドアが閉められると、瞬は、思い詰めた目をして氷河を見詰め、 「だ……騙しててごめんなさい……!」 と、自分を騙し続けていた男に謝罪してきた。 どう考えても、立場が逆だった。 だが、どちらがどちらに嘘をついていたのかなどということは、もしかしたら、最初からどうでもいいことだったのかもしれない。 ふたりの嘘は、その2つともが、互いに伝えることができずにいた真実の言葉だったのだから。 「──瞬」 「……はい」 今、氷河がすべきことは、瞬に己れの罪を告白して許しを求めることではなく、言えずにいたあの言葉を、瞬に告げることだった。 「俺はずっと、おまえに言いたかったんだ」 「……?」 責めることも許すこともするつもりがないらしい氷河の顔を、瞬が泣きそうな目で見上げる。 その視線を真正面から捉えて、氷河は、もうずっと長いこと言えずにいたその言葉を、瞬に告げたのだった。 「俺はおまえが好きなんだ」 やっと言えたその言葉に、氷河はなぜか大きな安堵感を覚えていた。 言葉にして言うだけで、こんなに楽な気持ちになれるのなら、もっと早くに言っておけばよかったと思う。 恋のすべてのことは、その言葉の後に始まるものなのだから。 氷河の瞳に憤りの色がないことに気付いた瞬が、強張らせていた身体と表情から力を抜く。 「あの……僕も……! 僕もね!」 瞬は──そして、瞬も、明るい瞳で氷河に告げることができたのだった。 「僕のハートランドには、いつも氷河が住んでたの。氷河のいるところが、僕のハートランドだったんだよ!」 ──そんなふうにして。 氷河と瞬は、自分のハートランドと、そこに住む大切な人の姿を取り戻すことができたのである。 そこはいつも、誰にとっても、とても大切な場所です。 Fin.
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