山頂にある白い塔の窓から下界を見下ろす。

見えるものは、塔の周囲の、今は誰の姿もない庭と、垂直発進できるジェットヘリの離発着場のみ。
雲に遮られて、人間たちの住む世界は見えない。
代わりに、瞬は、部屋の壁に設置されているスクリーンを振り返った。

そこには、雲に遮られて見ることのできないもの──下界の人々の暮らし──が映しだされている。
畑を耕し、山羊や羊を飼い、機を織り、子を産み慈しむ一方で、強い者を頭目に選び、戦いのための集団を作り、武器を手にして争いを繰り返す人間たちの様子が。

それは、この星の外を回る人工衛星が届けてくれる映像だった。
その機能が、いつまでつのかを瞬は知らない。
数代前までは、このエリシオンでは、数十年ごとに新たな人工衛星を宇宙に送り出していた。
やがて、その必要性が疑問視されるようになり、資源と人材の他方面への振り替えの提案が為されて、それは中断されることになった。
そして、そのための知識と技術は、いつのまにか失われてしまったのである。


そんな重要な知識がいつのまにか失われてしまったように、“神”という存在も、神の持つ知恵と技術も、そして、“神”という存在自体も、やがてはこの地上から失われる運命にあるのではないかと、最近の瞬は思うようになってきていた。 






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