「それで? なぜ、おまえが、そんな映画のことを急に思い出して、そして泣くんだ? ある人物の前世の記憶をオムニバス風に描いた映画だといったな」
「うん……。その人物が、最後に自分の前世を思い出したのは、今から60年くらい前のことだよ。戦争のさなかにね、一人の敵兵を殺した時に思い出したんだ。自分も死にかけてた。目の前に倒れている敵兵を見て、気付くんだ。これは、あの人だって」

「その二人は、転生を繰り返しているのか」
「そうだよ。その人物が思い出したのは、マヤの時代のことやアンリ3世時代のことだけじゃないんだ。これまで二人が繰り返してきた出会いと別れを全部思い出すの。こう、フラッシュバックみたいにね。戦場で、平和な国で、凍える国で、熱砂の砂漠で──宗教改革の時代の時もあったし、魔女狩りの時代の時もあった。年齢が近いこともあったし、ものすごく年齢差がある時もあった。どちらかが女性だったこともあったし、その人が生まれたばかりの、でも死にかけた赤ん坊で、相手の人が瀕死の老人の時もあった。とにかく、擦れ違いを繰り返してきたの。死の間際まで、お互いに、相手が誰なのか気付かないから。だから、出会っていても、出会いの意味がわからない。死の瞬間まで、憎み合ってることさえあった。いつもいつも、死の間際に思い出すんだ。そして、気付くんだ。ああ、この人が僕のあの人だったんだ……って」
「…………」


「結局、悲運な恋人同士が何度転生を繰り返しても結ばれず、結ばれないまま終わる映画だったのか?」
「そう、だね。そういうことになるね」
「駄作だな。ヒットしなかったんだろう」
「あの映画を観た人は、多分──この世の中で二人きりだよ」






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