日本に戻ってきてからは、闘いの連続だった。
泥のように疲れて眠るしかない夜の連続は、瞬の心と身体には、逆に負担の少ないものだったかもしれない。
“平和”という不安に苛まれて眠れない夜が続くよりは。

平和な日が続くことの方が、瞬はむしろ不安だった。
明日にはまた新しい敵が現れるのではないか、明日には誰かを傷付けなければならなくなるのではないか──その不安は、決して生まれなくなることはない。
瞬は、時には、かつて倒した敵が、闇の中で自分を呼んでいるような錯覚を覚えることもあった。

明日は何か良くないことが起こるのではないか──という不安は絶えることがない。
仲間が、兄が、自分が、敵が、闘いが──。その主語が何であれ、楽しい未来を考えることは、瞬にはできなかった。

明日が不安で恐しく、眠れない夜が続いていた。
──昨夜までは。

だが、今夜は違っていた。
昨日までと同じように、なかなか寝つくことはできないが、それは不安のためではない。
目は冴えていくばかりだが、それは昨日までとは違う理由のせい。
今夜は、昨夜までとは違うのだ。

明日はきっといいことがある。
瞬の胸は、今夜は期待と希望でいっぱいで、だから瞬は、遠足の前日に興奮している子供のように、いつまでも眠れずにいた。

(あ、でも、子供の頃に、みんなでピクニックに行くことになってた日の前の晩も、僕は、雨が降ってみんなががっかりするんじゃないかって、そればっかり心配してたっけ……)
これまでの瞬には、遠足前夜の興奮さえも、期待や希望でできているものではなかった。

だが、今夜は。
明日からはいいことしか起こらない。
そんな気がした。

嬉しい、楽しい、嬉しい、楽しい──。
今夜の瞬の気分を言葉にするなら、そんなふうだった。


──その夜、かなり遅くなってから、瞬はやっと眠りに就いた。
夜半に、雨が降り出したらしい。
幸せな夢を見ながら、瞬は、テレビのノイズにも似た雨の音を聞いたような気がした。






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