その夜、瞬は、氷河との夜のデザートを楽しむことはできなかった。 その日のうちにパティシエ修行にピリオドを打った氷河の体力消耗のせいでは、もちろん、ない。 氷河作のデザート“クレープ・オ・ショコラバナーヌ・カラメルソースのアイスクリーム添え”──。 一見したところでは、なかなかに美しい姿をした 氷河の作ったそれの味は、無理に地球上に既存のもので例えるなら、油を吸ったキッチンペーパーで泥土を包み、そこに墨汁ソースのかかった紙粘土の塊りを添えたような代物だった。 到底、地球上の生物に食することのできるものではない。 ──人には、信じて貫くだけではどうにもならない、向き不向きというものがある。 愛だけでは乗り越えられない壁というものがある。 氷河の“クレープ・オ・ショコラバナーヌ・カラメルソースのアイスクリーム添え”を食することで、瞬は、むごく悲しく厳しい現実というものを思い知ることになったのだった。 瞬が、味覚と恋愛感情の間に関連性を認めていなかったのは、不幸中の幸いだったろう。 そんなにも衝撃的なデザートを食べさせられたというのに、瞬の中の氷河への愛情は消え去ることはなかったのだから。 もちろん、 メインディッシュは他にある。 だが、人は、デザートがないと不満を感じ、デザートがおいしいと幸福になれるのだ。 Fin.
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