ところで、このお話は童話です。 ですから、当然、ストーリーは童話的に展開していきます。 瞬王子は、氷河王子の亡骸を抱きしめて、その瞳から悲しみの涙をあふれさせました。 その涙が氷河王子の瞼に零れ落ちた時──あっと驚く急展開。 これはいったい、どういう奇跡なのでしょう。 「瞬……何を泣いているんだ。そんなに痛かったのか?」 瞬の腕の中で、氷河王子は、実に童話的に息を吹き返してしまったのです。 「氷河っ !! 」 「なななななぜだっ !? 」 瞬王子の喜びは尋常ではありませんでした。 けれど、カニ好きの妖精の驚きはそれ以上でした。 折りしも、真実の朝の陽光が、瞬王子の寝室に射し込んできます。 本物の朝の光の中で、カニ好きの妖精は、あられもない姿で、あられもない格好の氷河王子を抱きしめている瞬王子の顔を見て、再度驚愕したのです。 「お……おまえはもしや、南の国の……」 「2番めの王子ですけど……」 「ししししししまったーっっ!」 事ここに至って、カニ好きの妖精は、自分の計略が完全な失敗に終わったことを悟りました。 実は、瞬王子が生まれた時、祝いの宴のカニ料理に気をよくしたカニ好きの妖精は、 「この子には、一生に一度だけ、死んだ者を蘇らせることのできる力を与えよう」 という、特別の祝福を瞬王子に与えていたのです。 カニ好きの妖精は、生者の国と死者の国を結ぶ道を管理している妖精でしたから、そんな祝福を与えることもできたんですね。 自分のドジに気付いたカニ好きの妖精は、地団太を踏んで悔しがりましたが、すべてはあとの祭り。 氷河王子の祝福という名の呪いは、瞬王子の美しい涙の雫で、実に童話的に、実にあっさりと消えてしまったのでした。 |