瞬が、仲間たちの前に姿を現したのは、星矢と紫龍が全てを納得してからのことだった。

「お……おはよう、星矢、紫龍……」
先に『おはよう』を言ったのであろう氷河には、瞬からの朝の挨拶はない。
星矢と紫龍は、今度こそ本当に、全てを了承した。

それまで仲間たちの前で切ない恋心を高言していた氷河が、弾かれるように瞬の側に駆け寄っていく。
その手を取って、瞬をソファに座らせながら、彼は早速下僕の仕事に勤しみ始めた。

「大丈夫か? 具合いは悪くないか?」
「うん」
「朝メシは食えるか?」
「え……と、ジュースだけ飲みたい。オレンジジュース」
「わかった、すぐ持ってくる。ここで待ってろ」
「あ、氷河……ごめんね。ありがとう」
「おまえはもっと威張ってていいんだ。俺は永遠におまえに逆らえないんだから。その代わり、あのことは絶対にバラすなよ」
「うん……」

氷河とのそれ・・お気に・・・召して・・・しまったことが恥ずかしいのか、瞬は、氷河にあれこれ気遣われている間ずっと、星矢や紫龍の視線を避けるように顔を伏せていた。

氷河はと言えば、口止めがてらに星矢と紫龍を睨みつけてから、瞬に使われることが嬉しくてたまらない様子で、瞬が所望したものを調達するために、足早にラウンジを出ていった。
案外氷河には立派な下僕体質が備わっているのかもしれないと、星矢たちは、いっそ微笑ましい思いで、彼を見送ったのである。


氷河は、敵を倒すためには使わない頭を、瞬との幸福な日々のために──つまりは、自らが幸福になるために──使う。
おそらく氷河の生き方は、徹頭徹尾 正しいのである。






Fin.






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