行き場を失った俺は、結局、ダイニングテーブルのいつもの席に腰をおろすことになった。
そこに、星矢が、身を乗り出すようにして尋ねてくる。

「なあ、氷河」
「なんだ」
「おまえ、夕べ、瞬とした! ……んだろ?」
「…………」

デリカシーのかけらもない単語を使って、そう訊いてきた星矢に、俺は、とりあえず黙秘権を行使することにした。
俺個人としては、『その通り。俺は夕べ、瞬と目いっぱいした。だから瞬はもう俺のものだ!』と、世界中津々浦々の人間共に宣伝してまわりたいところだったんだが、なにしろ、俺の恋人は俺の百倍、星矢の千倍もデリケートだ。
瞬は、そういうことは秘密にしておきたいと思っているかもしれないし、俺はもちろん、瞬の意思を尊重したい。
“二人きりの秘密”なんてのも、なかなか楽しいことだしな。
こっそり優越感に浸っているのも気分のいいことだろう。 

とまあ、そんなことを考えて俺が黙っていると、星矢の馬鹿が、またまたとんでもないことを言い出した。
「やっぱ、あれか。ゴーカンか?」
「た……たちの悪い邪推をするな! 俺はちゃんと瞬にお伺いを立てて、OKの返事をもらってから、コトに及んだ!」

脊髄反射で星矢を怒鳴りつけてから我にかえっても遅い。
俺はつくづく正直な男だ。

「なるほど。では、一応、合意の上のことではあったんだな」
紫龍がそう言って、一度深く頷いてから、意味ありげな視線を俺に向けてきた。






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