俺は利口な男だ。
少なくともパブロフのわんころの1.5倍くらいの学習能力がある。
その夜、俺は、完璧に、
「瞬、苦しくて我慢できない。助けてくれ」
をマスターした。

瞬は──俺と身体を交えることが痛いのも事実らしいが、その100倍気持ちいいというのも事実らしい。
事実というより、瞬はそう感じるらしい。
「なぜだ」
と尋ねると、瞬は、
「相手が氷河だから……かな?」
と答えてくれた。
嬉しがらせ半分にしても、こんな感動的な言葉があるだろうか。

驚いたことに、瞬は、瞬に恋する哀れな男にほだされたんじゃなく、積極的かつ能動的に俺を好きでいてくれるらしい。
だから、俺がしたい時(毎日かつ終日だが)には、大抵瞬もしたがっていると思っていいらしい。
瞬がそう言ってくれたんだから、そこは間違いないだろう。
はにかむ瞬にそう言われた時には、俺は、自分が夢の世界にいるんじゃないかと思った。

有頂天になった俺は、今となっては死語辞典にも載らないほどに使い古された日本語『俺の頬をつねってみてくれ』をかましてみたんだ。
瞬が、俺の頬をつねる代わりに、俺を締めつけてくる。
そんな態勢でそんなことを訊いた俺も大概馬鹿だが、これはサービス過剰だろう。
俺が低く呻くと、瞬は一度小さく笑い、それからまた白い喉をのけぞらせて、気持ちよさそうに喘ぎだした──。






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