「外傷や薬物を用いて機能的な不能状態にするよりは、心因性の不能状態にした方が より屈辱的だろうな。心因性の不能には、医者や薬では治せないという利点もある」
「となると、闘いは心理戦か」
「宗教的・道徳的に問題があると責めてみるのはどうだ? キグナスはあれで図々しくもクリスチャンだと聞いているが」
「あー、だめだめ。氷河のクロスはただの飾り。氷河の神サマなんて、クリスマスにも現れやしない」
「ならば、キグナスよりアンドロメダを攻めた方がいいかもしれないな」
「瞬? んでも、瞬はさー、もうすっかり開発済みらしいぜ。ここだけの話、前より後ろをいじられる方が感じるようになっちまってるらしい」
「嘆かわしい話だ」

野望の実現に向けて、アルベリッヒは早速熱心な努力を開始した。
まずは情報収集、綿密な計画立案、そして、迅速かつミスのない実行。
このところ開店休業状態だった彼の頭脳はフル稼働し始めていた。

「しかし、それを逆手に取ることもできる」
「どうするんだ?」
「アンドロメダに肉体の快楽が罪悪だという思い込みを植えつけるんだ。その上で、アンドロメダがキグナスとのそれを嫌がるように仕向ければ、キグナスはアンドロメダの拒絶に自信を失うことになる」
「でも、だから、それはさぁ……」
「瞬は、あの顔でかなりの好きモノだとさっき星矢が言ったろう。事実だぞ」
「俺自身が不能の振りをする」
「なにぃ !? 」

アルベリッヒの思いがけない提案に、二人のアテナの聖闘士は息を飲んだ。

「俺自身がシたくてもデキない振りをして、その苦しみをアンドロメダに切々と訴える。アンドロメダは当然、肉体の交わりよりも心の交わりの方が重要だと言って、俺を励ますことになるだろう。そして、自身がキグナスとの行為で得ている快楽が大きければ大きいほど、勝手にひとりで俺への負い目を感じて、その行為に罪悪感を抱くようになる。そうなれば、こっちのものだ」
「うわ……!」

己れの野望を実現するために、我と我が身を惜しげもなく犠牲にしようというアルベリッヒの底知れぬ根性と執念に、さすがの星矢も感嘆することしかできなかった。

「野望実現のために捨て身の戦法か。デルタ星メグレスのアルベリッヒ、まさに真のおとこだぜ……!」
「何という執念だ……! 俺たちは、地上の平和のために闘っていた時でさえ、ここまで己れを空しくできたことはない」

味方の賞賛と敵の賞賛。
そのどちらにより信が置けるかと問われれば、それは当然後者である。
昨日までの敵の心からの賞賛と感嘆、尊敬と畏怖の眼差しを受けて、デルタ星メグレスのアルベリッヒは、着実に かつての自信を取り戻し始めていた。






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