「そう言われたら、逆らえないでしょう?」

星矢と紫龍が氷河の話の飛躍についていけず言葉を失ったところに登場したのは、彼等の女神アテナだった。
今夜は、いつもの下品なピンクの胸開きドレスではなく、真紅のビロードのドレスの上に濃紺のケープを羽織っている。
沙織はどうやら聖母マリアの役を振られているらしい。

救世主の母親にしては若すぎるマリアが、彼女の聖闘士たちをなだめるように──本来なら氷河が説明すべきことを、星矢たちに説明してくれた。
「瞬がね、家族揃ってのクリスマスを夢見ているんですって。氷河はそんなクリスマスを瞬にプレゼントしたいそうなの。協力してあげましょう」

「瞬が……」
ほんの10秒で済む説明である。
氷河はなぜそれを先に言わないのかと、星矢と紫龍は呆れ、疲れ、脱力した。
事前にちゃんと説明してもらえさえすれば、それは彼等が協力を惜しむようなことではなかったのだ。

文句のひとつでも言ってやろうとした星矢たちを相変わらず無視して、氷河はせっせと部屋の装飾に勤しんでいる。
星矢たちは、氷河に張り切っている様子を見せられれば見せられるほど──激しい疲労感に襲われるばかりだった。

「……氷河って、時々びっくりするほど健気だよな」
「しかし、肝心の家族がひとり足りないようだが」
「氷河にそこまで要求するのは酷なんじゃねーの?」
とか何とかぼやきながら、やっと“事”の次第が見えてきた星矢と紫龍は、氷河が持ち込んだ紙袋から金色のベルを取り出した。






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