「つまりだ。ポエムっていうのは、自分に酔える人間にしか作れないものなんだ。詩だけじゃない、散文も似たようなものだ。いずれにしても、俺のように理性的な人間には無縁のものだ」
瞬の心配をよそに、どこが理性的なのかの判断に迷う男が、大胆不敵にも世界中の詩人・小説家を敵にまわすようなことを豪語する。

瞬は、しかし、彼の傲慢を非難するようなことはしなかった。
そして、氷河に詩を捧げられることを諦めることもしなかった。
なにしろ、諦めが悪いのがアテナの聖闘士の身上である。
瞬は、別方向からの攻撃に出た。

「僕、いつも思ってたんだけど、氷河はすっごく綺麗で、頭よくて、おまけにかっこいいし、優しいし──」
「何だ、急に」
瞬は突然何を言い出したのかと戸惑いつつも、瞬の唇から次々に零れ落ちてくる褒め言葉が、氷河の耳には極めて快く響いた。
やにさがりだした氷河に、諦めの悪い瞬が、新たな攻撃を仕掛けてくる。

「氷河は、自分に酔える材料をいっぱい持ってるってことだよ」
が、瞬の褒め言葉攻撃は、あまり有効ではなかった。
瞬の魂胆に気付いた氷河が、さっと真顔に戻る。
そして、彼は言った。
「あいにく俺は、おまえにしか酔えない体質なんだ。体質改善の予定もない」
「…………」

氷河のその言葉を聞いて、瞬は一瞬きょとんとしてしまったのである。
それから瞬は、真顔でそう言ってのけた氷河を見やり、小さく吹き出した。
「氷河、絶対、ポエマーの素質あるって。ね、ちょっと挑戦してみてよ。そして、氷河の作った詩を僕に聞かせて?」
「いや、だから、俺はだな!」
「自分に酔えない人や、逆に自分を嫌悪することがない人は、自分を愛していない人でもあるよ。僕の好きな氷河が、僕の好きな氷河を愛してないなんて、そんなの悲しい。そんなこと あるわけないよね?」
「う……」

瞬が、にっこりと、特別上等の微笑を作って、それを氷河に向けてくる。
結局のところ、氷河は、瞬のその微笑に3ラウンド2秒KOで あっさり負けてしまったのだった。






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