そのメールが最初に瞬の携帯電話に届けられたのは半年前。 タイトルは『メル友になってください』という、5年ほど前にならよく見掛けた類のものだったという。 昨今のスパムは、メールの送信ミスを装ったり、知人・家族を装ったりと様々に手が込んでいて、そんな“いかにも”なメールはどれほど不慣れなスパム業者でも送ってくることはない。 「だから、かえって いたずらに思えなかったんだよ」 と、瞬は警戒心の全くない目をして、氷河に言った。 少々弁解がましく。 ちなみに本文は、 『僕の名前は、ワタナベ マモル。小学5年生です。ずっと入院中です。友だちもいません。誰か返事ください』 瞬の携帯電話に、ある日届いたそのメールで、“マモルくん”と瞬のメール交換は始まったのだそうだった。 「スパムかアポイントメントセールスの新しい手口に決まってるじゃないか」 「違うよ。だって、マモルくんとメール交換始めてからもう半年になるけど、怪しい請求もないし、僕のアドレスが悪用された気配もないし」 氷河は本当は、それがスパムなのかどうかなど、どうでもよかったのである。 彼はとにかく、瞬と“マモルくん”のメール交換の事実と、瞬が今の今までその事実を仲間に隠していたことが気に入らなかったのだ。 『僕はもう2年も心臓の病気で入院してます。学校の友だちは上の学年になって、今の僕にはクラスメイトもいなくて、見舞いに来てくれる友だちもいません。学校に行けるようになっても友だちはできないかもしれないし、それくらいなら病気なんてもう治らなくていいと思う』 しかも瞬は──他にメール交換するような相手がいないからできることではあるのだろうが──“マモルくん”からのメールのほとんどを削除せず、後生大事に保存していた。 「そんなふうに自暴自棄になってるみたいだったから……」 瞬は、どこの誰とも知れぬ相手からの、嘘とも真実ともわからぬメールを真に受け、必死に励ましのメールを送り続けたのだそうだった。 「俺は、そういう後ろ向きなガキは大嫌いだ」 氷河は何もかもが気に入らない。 とにかくすべてが気に入らなかった。 不愉快そうに口をへの字に結んでしまった氷河に、瞬が困ったような微笑を作る。 「氷河、まさか小学生に焼きもち焼いたりしてないよね?」 「小学生というのだって自己申告だろう」 「でも、メールの内容は本当に小学生ぽかったよ。友だちってどうすればできるのかな、とか」 「大人でも、そんなことを知らない奴はいくらでもいる」 「でも……」 瞬の瞳が曇る。 このメールのやりとりが氷河の気に入るはずがないことは、瞬も最初から承知していたのだ。 瞬は、できることなら、“マモルくん”の心身の病が癒えて復学し、歳相応の友人ができて、直接会うことのできないメル友を彼が必要としなくなるまで──つまりは、“マモルくん”とのメール交換が現在進行形であるうちは──このことを氷河に知らせるつもりはなかった。 その事実を白状せざるを得ない状況に瞬を追い込んだのは、他ならぬ氷河である。 瞬は、少し恨みがましげな目を 氷河に向けた。 |