『瞬は、自分が傷付けなければならない敵を愛しているからな』 自分が、自分の倒す敵を愛しているという事実が、免罪符になるとは思わない。 愛で全てが許されるのなら、この世界には罪など存在しないはずなのだ。 人は誰もが、必ず誰かを愛しているのだから。 愛という言葉で、罪が許されるわけではないことはわかっている。 だが、仲間たちが、そんな矛盾に満ちている自分を信じていてくれるという事実、瞬の懊悩を見守っていてくれるという事実が、瞬は嬉しかった。 理想を捨てずにいてもいいのだと、夢を諦めずにいていいのだと、彼等はいつもその眼差しで瞬を励まし続けてくれるのだ。 理想と現実の懸隔は大きい。 瞬の夢は、今は到底叶いそうになかった。 だが、瞬は幸福だった。 答えを出せずにもがき続ける無力な人間を認め、信じ、見守ってくれる仲間たちが、瞬にはいる。 だから。 どうして自分はこんなにも恵まれているのだろうと不思議な思いがするほどに──瞬は幸福だった。 「……氷河、ありがとう」 「? 何だ?」 「ううん……」 改めて感謝の言葉を言い連ねるのも気恥ずかしく、瞬はその先の言葉を濁した。 氷河が一瞬間だけ、探るような視線を瞬の上に走らせる。 それから、彼は言った。 「おまえは、おまえのしたいことを、おまえの信じるやり方でやり通せばいい。俺は──俺たちは──少しはおまえの力になれているか?」 さもしい神の目的は、どう説明されても理解できないらしい氷河が、仲間の苦渋や迷いだけは敏感に読み取ってみせる。 瞬は、ふいに瞳の奥が熱くなってきた。 「僕の力は全部、そこから生まれているよ」 だから、これまで闘い続けてこれた。 これからも──理想と現実の乖離や矛盾に悩み苦しむことはあるだろうが、闘い続けていくことができるだろう。 自らの力の源が虚栄心などというものではなく、愛や信頼と呼ばれるものだということが、瞬はとても嬉しかった。 Fin.
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