氷河は、最初のうちは、どうにかして瞬にこの無謀な恋を諦めさせることはできないものかと、そればかりを考えていた。
恋の感情は、意思の力で止めることができるものではないこと、ましてや第三者に止めることなど不可能だということは知っていたのだが。
実際、氷河自身が、こんな絶望的な事態になっても、自分の恋を止められずにいたのだから。


瞬は、どう見ても、それが初恋らしかった。
瞬は、傍で見ている方が気の毒になるほどに星矢を意識して、彼に近付いたり離れたりを繰り返していた。
ただの仲間だった頃の自分のままでいようと努めて、だが、そうすることができずに、ついには逃げ出してしまう。
目立たないスミレの花の分際で太陽に恋したことを申し訳なく思い、星矢の一挙手一投足にびくびくと怯えている──。

瞬は、そんなふうだった。
瞬が意識しているのは──意識しすぎるほどに意識しているのは──本当は星矢ではなく、もしかしたら、星矢に恋をしている自分自身だったのかもしれない。

そして結局、氷河は、そんな瞬を黙って見ていることができなくなってしまったのである。
瞬の恋が止められるものではないのなら、それは実ってくれた方がいい。
瞬には幸福そうに笑っていてほしい。
──人によっては何年もの時間をかけて辿り着く その境地に、氷河はわずか4、5日で到達してしまったのである。
それほどに、恋をしている瞬は健気に過ぎ、不器用に過ぎたから。






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