「氷河……あの……。僕、星矢に、僕がほんとに好きなのは氷河だって言われて、僕もそんな気がしてきて、だから、あの……僕、氷河が好きみたいなの……」

まだ迷う気持ちが残っていないわけではなかった。
自分が氷河を好きだということに、確固とした自信があるわけでもない。
だから瞬の告白は、何とも頼りない調子のものになった。

「か……軽々しく心の変わる奴だって思わないで。僕、氷河が僕のためにしてくれたいろんなこと、全部星矢がしてくれたことだと勘違いしてて、僕が好きだったのは最初から氷河だったのに──ううん、そんなことはもうどうでもよくて、僕、氷河がつらそうにしてると、僕までつらい気持ちになって……僕、星矢の言う通りかもしれないって思って──」

うまく言えないことがじれったい。
こんな心許ない言葉で氷河に自分の気持ちを伝えられるのかと、瞬は不安でならなかった。
いっそ今ここで氷河が『おまえが好きなのは俺なんだ』と決めて・・・くれたなら、自分は即座にその言葉を信じるのに──とさえ、瞬は思った。

勇気を振り絞って、伏せていた顔をあげる。
瞬は、あの雪の夜の夜以来初めて、そして再び、氷河の青い瞳と向き合った。
少し戸惑ったような様子で、それが瞬の顔を映し出している。
氷河の表情は、瞬の告白を聞いてもあまり変わってはおらず、むしろ、喜んでいいのかどうかを迷っているようにも見えた。
だが、その瞳の輝きは、あの雪の夜とは決定的に違っている。
瞬がいつも冷たいと思い込んでいた彼の瞳の奥には、今は希望と期待が見え隠れしていた。

その瞳に出合った時、瞬は、急に胸の奥を掴みあげられたような不思議な痛みを自覚したのである。
その痛みは瞬のすべての感覚を麻痺させ、まるで地球の重力から解放されてしまったような気分を、瞬のもとに運んできた。
氷河の瞳が希望を抱いていると、自分も嬉しい。
もし、今はまだ戸惑い迷っているような彼の瞳がすべての曇りを消し去って、明るく温かく輝いてくれたなら、自分はどれだけ幸せな気持ちになれるだろうかと、瞬は思い──思った瞬間に、瞬の迷いは消えうせた。

「僕は氷河が好きです。これまで ごめんなさいっ」
迷いが消えた勢いで言い切って、氷河に大きく頭をさげる。
瞬が再び顔をあげた時、瞬の前には、瞬の望むものがあった。
温かく優しく、そして、とても嬉しそうに輝いている青い瞳が。
瞬を、嬉しく楽しい気持ちにしてくれる眼差しが。

「じゃあ、一緒に死ぬのはやめて、一緒に生きていくか」
その明るい瞳の持ち主が、瞬に、抑揚を無理に抑えたような声で語りかけてくる。

「うん……!」
馬鹿な勘違いをして、氷河にあんなにつらそうな目をさせた相手を、氷河は責めもせずに許してくれると言う。
瞬は、自分が弱い心を持つ弱い人間だということを認めないわけにはいかなかった。
だが、その弱さを許してくれる人がいるからこそ人は強くなれるのかもしれないとも、瞬は思った。

一瞬 間をおいてから、氷河の腕が瞬を抱きしめてくる。
あの雪の夜に感じた、命を生かしてくれる温かさが瞬を包み、氷河がそんな温かさを持っていることに、今まで気付かずにいたことを、瞬は少し後悔した。
それから、心地良い温かさの中で、小さく呟く。
「うん。その方がいい」

冬はまもなく終わるだろう。
そして、命が復活する季節がやってくるのだ。






Fin.






【menu】