瞬は、ベッドの上に身体を起こそうとした。 そうして瞬は、自分の身体が重く感じられていたのは、昨夜の氷河の ほとんど一方的で乱暴な交接のせいだけではないことに 気付いたのである。 ベッドが硬い。 平生であれば、瞬の身体を半分近く沈み込ませるほど やわらかい寝台が、まるで木の板のように硬い感触で瞬の身体を跳ね返してくる。 奇妙に思って目を開けた瞬は、その時になって初めて、自分がいつものベッドの上にいないことを知った。 それどころか、そこは瞬の部屋ですらなかった。 灰色の石の壁。 枕元にある質素な木のテーブル。 テーブルの上の真鍮の皿の中では、蝋燭の燃えさしが蝋の雫を涙の形にして倒れかかっている。 光は、窓から差し込む陽光のみ。 室温が低いのは時刻が早いせいではなく、陽光を室内に誘う窓が小さく 空調が作動していないせい。 瞬が目覚めた部屋は、それが自然光であれ人工の照明であれ室内全体に光が行き渡るように設計された城戸邸の部屋とは、そもそも造りが違っていた。 つまり、そこは城戸邸の瞬の部屋ではなかったのである。 「ここ……どこ……?」 瞬が目覚めた場所は、中世の城砦風ゴシック建造物の一室──のようだった。 まるで中世騎士物語の中に登場する城の部屋だと、瞬は思った。 おそらくは敵に攻撃を受けた時の防衛を考慮して小さく作られている窓の外には 石造りの家々があり、それらの建物は堅固な二重の城壁に囲まれている。 そして、城壁の更に向こうには、まるでローマのコロッセオを模したような巨大な円形闘技場がそびえたっていた。 |