翌朝シュンが改めてヒョウガの寝室を訪ねると、あまり寝起きがよろしくないらしい英雄は、寝ぼけた顔で、白い寝台の中に入るようシュンを手招いた。
「そういうことは、僕との約束を果たしてから要求してください。さあ、早く起きて働いて──わあっ!」
乱暴にヒョウガの上の掛け布を彼から引き剥がしたシュンは、その場に、一枚の布も身に着けていないヒョウガの裸体と 大層立派なその付属物とを見い出して、慌てて視線を横に逸らした。

「この国は夜も暑い。夜風がなかったら、まともに眠ることもできないな」
シュンの反応を面白がっているのか、寝台の上に身体を起こしたヒョウガは、その格好のままその場にあぐらをかいて、早速仕事に取り掛かり始めた。
「アンドロメダ姫には婚約者がいると言っていたな」

ヒョウガから奪い取ったものを、シュンは結局彼に――彼の腰のあたりに――戻すことになった。
そんなものを見てしまったくらいのことで取り乱してしまった自分に苛立ったような声音で、シュンがヒョウガの質問に答える。
「王の弟君でピネウス殿といいます。姫をティアマトの生け贄に捧げよという神託が出た時にも、姫の振りをした僕が鎖に繋がれた時にも、何もしないで手をこまねいているだけだったのに、権利の主張だけは大変にご立派な方で、姫を通りすがりのただの美形に与えることにしたという王の決定に早速異議を唱えておいでです」

慇懃無礼を極めたシュンの口調に、ヒョウガがわざとらしく肩をすくめる。
「おまえがそいつを嫌いなのはよくわかった。俺をそいつに引き合わせてくれないか」
「……何をするんです」
「俺がその男に何を言っても、おまえは黙って聞いていろよ」

ヒョウガはどうやら、仕事のパートナーに詳しい仕様説明をする男ではないらしかった。
シュンも、今はそんなことをヒョウガに求める気にはなれない。
シュンが代わりにヒョウガに要求したことは、
「言う通りにしますから、早く服を着けて!」
――だった。

「いずれ おまえの中に収まるものなんだから、よく見ておいた方がよくないか?」
そう言いながら、ヒョウガが、シュンから返された掛け布を勢いよく取り払おうとする。
その手を必死に押しとどめようとするシュンを、ヒョウガは声をあげて笑った。
彼はとりあえず、目覚めることだけはしてくれたようだった。






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