昔々、世界の北の果てに、広い国土を持つ大層強大な国がありました。 なにしろ寒い国ですから、国民の数もさほどではなく、軍隊の力も強力とは言えなかったのですが、広い国土にはダイヤモンドや水晶、石油や石炭、その他いろんな種類の地下資源が豊富なため、その国は近隣諸国から一目置かれていました。 人はなぜか――特に、お金持ちや支配層に属する人間は――きらきらしたものが大好きですからね。 ダイヤがたくさんある国とは仲良くしたがるものなのです。 ちなみに、北の国の軍備が手薄なのは、北の国には“寒さ”という強力な防御壁があったから。 その昔、北の国のダイヤモンドを我が物にしようとして北の国の侵略を企んだ西の国の王様が、北の国の厳しい風雪のせいで数十万の軍隊を失ったというのは有名な話です。 ともあれ、その厳しい気候のおかげで、北の国は他国からの侵略の心配のない、とても平和な国でした。 その平和な国には、王子様が一人いました。 名前を氷河王子様といいます。 氷河王子のご両親は早くに亡くなり、現在、北の国の王位には氷河王子の叔父君が就いていらっしゃいます。 この叔父君はカミュ国王というお名前で、それなりにいい歳なのに未だに独身、お子様もいらっしゃいません。 ですから、現状に大きな変化が起こることがなければ、北の国の次期国王の座には氷河王子が就くことになるだろうと、誰もが思っていました。 その氷河王子は金髪碧眼の大層な美形でしたが、彼にはひとつふたつ困ったことがあったのです。 まず第一に、氷河王子はマザコンでした。 幼い頃に亡くなったお母様を、今でも心から慕っているのです。 そして、第二に──これが大問題なのですが──氷河王子は、亡くなったお母様以上の女性がこの世にいるはずがないと決め込んでいました。 その当然の結果として、氷河王子は女性に全く興味を持っていませんでした。 つまり、女嫌いだったのです。 一国の王子様がこれでは困ります。 北の国の国王 及び 王位継承者に課せられた最大の義務は、豊かな資源を持つ広大な国土を受け継ぐ世継ぎをもうけること。 自分の次の国王──王家の血を受け継ぎ、王になるための教育を受けた次期国王──を用意することが、一国の王の最も重要な務め。 その流れを途切らせ、王位を巡る内紛の種を蒔くような国王は、どんな善政を施したとしても国王失格、最低の国王です。 氷河王子のマザコンと女嫌いに、カミュ国王は大変困っていました。 美化150パーセントで描かれた幾人ものお姫様の肖像画を見せられても、おとぎ話によくあるように近隣のお姫様を大勢招いて舞踏会を開いても、氷河王子は一向にその気になってくれません。 氷河王子を結婚させるための画策は、いつもすべてが徒労に終わるのです。 カミュ国王は最近では、氷河王子が結婚してくれるのであれば、そのお相手はどんな身分の者でも構わないとさえ思うようになっていました。 |