結局瞬は、お城に帰るカミュ国王に連れられて、その日のうちに北の国の都に足を踏み入れました。 ダイヤその他の地下資源で富んでいる北の国の王宮はとても立派。 その立派なお城の一室で、瞬は、カミュ国王の指示を受けた侍従に着替えの服を渡されたのです。 貴族の子弟が着るような宮廷服を身に着けてカミュ国王の前に立った瞬の姿を見て、カミュ国王は大いに満足したようでした。 「見事だ! 男にも女にも見えない。素晴らしい!」 「…………」 瞬は、褒められている気が全然しませんでした。 カミュ国王は身支度を整えた瞬を、早速氷河王子の私室に連れていきました。 女嫌いの王子様は、王位継承者作りには不熱心でも、他のことでは勤勉らしく、机の上に本や書類を山積みにして、それらのものに目を通していました。 氷河王子は、突然喜色満面で現れた叔父君の浮かれた様子に少々当惑しているようでしたが、カミュ国王はそんなことには頓着しません。 カミュ国王はすぐに用件に入りました。 「氷河、今日からおまえの身のまわりの世話をすることになる……えーと?」 「瞬です」 「瞬だ」 自らが思いついた名案に浮かれまくっていたカミュ国王は、あきれたことに瞬の名前すら確かめていませんでした。 この分では、瞬の兄のことも、おそらく知らずにいるのでしょう。 瞬は少し前途に不安を覚えました。 そんな瞬の気も知らず、浮かれっぱなしのカミュ国王は、 「どうだ? 可愛い子だろう」 と、わざと性別を言わずに瞬を氷河王子に紹介しました。 氷河王子は無言で、新しい世話係を凝視しています。 瞬きもしない氷河王子の青い瞳に睨むように見詰められて、瞬はびくびくすることになったのですが、氷河王子のその様子を見たカミュ国王は、内心で『してやったり』と狂喜乱舞していました。 これまではどんなお姫様を紹介しても、どんな肖像画を見せても、『俺の好みじゃない』で切って捨てていた氷河王子が無言なのです。 何も言わないのです。 つまり、瞬は、氷河王子の『好み』なのに違いありません。 カミュ国王は、自分の立てた計画が図に当たったことを確信しました。 「では、若い者同士でごゆっくり〜」 と仲人口(?)でそう言うと、ともすればスキップ状態になりそうな両脚を必死の思いで抑えつけながら、カミュ国王は氷河王子の私室を後にしたのでした。 |