大馬鹿野郎の氷河はそれから、事情があって日本という国に行くことになった。
そこには、氷河と同じように親のない子供たちがたくさん集められていて、聖闘士になるための特訓を受けさせられていた。

まあ、言ってみれば、どいつもこいつも大人の都合に翻弄されてるガキ共だ。
氷河は、そいつらをみんな馬鹿だと思ってた。
自分もその中の一人だったくせに、大人の悪意が見えている分、自分だけは ただ大人の都合に振り回されてる仲間たちとは違うんだと思い込んでいたわけだ。
だから、氷河は、そこにいる大人たちにも 集められたガキ共にも、いつも冷めた目を向けていた。


その馬鹿共の中に、瞬って奴がいた。
女の子みたいに可愛い顔をしてて、泣き虫で――瞬は、すぐ泣く子だった。
きかん気で乱暴なガキばかりが100人もいると、その集団の中では自然に役割分担みたいなものができてくる。
リーダーシップをとる奴、誰かにくっついて大樹の陰を決め込む奴、氷河みたいに群れから外れる奴、色々だ。
瞬は、ちょっとしたきっかけですぐに暴走しかける仲間たちを心配する役。
乱暴なことが嫌いで、少し気が弱い優しい子だった。
氷河が、自分以外のガキ共をみんな馬鹿だと蔑んでることも知らず、氷河にも優しくしてくれた。

だが、氷河は、なにしろ母親が死んでからずっと、他人の悪意にばかり接してきてたからな。
瞬がどうして自分に親切にしてくれるのかがわからなかったんだ。
人は、自分の得になることしかしない。
自分を守るために簡単に他人を利用し傷付けて、利用価値がなくなったら、さっさとお払い箱。
そういうものだと思っていたから。
大人の都合に振りまわされてる馬鹿な子供にだって、いや、そういう無力な子供だからこそ、保身のための知恵はあるだろうと、氷河は思った。

だから氷河は、瞬が自分に親切にしてくれるのにも、何か狙いがあるに違いないと考えたんだ。
瞬はいじめられっ子だったから、そういう奴等から自分を守ってほしいとか、あるいは、自分の味方を作ろうとしてるんだろうとか――瞬の意図を勝手にそんなふうに決め込んで、氷河は瞬の親切をありがたいと思うこともしなかった。






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