「頼むっ! 瞬を引き取ってくれ〜っっ !! 」
氷河が、瞬の隣りで過ごす生き地獄に耐えられたのは、わずか2晩だけだった。
こうなることはわかりきっていたのに――と言わんばかりの呆れ顔を隠そうともせず、星矢が氷河の要望をすげなく拒絶する。
「けど、瞬はおまえをご指名なんだし」

「俺は、これ以上あの生き地獄には耐えられないっ! 本当に俺は瞬に何をするかわからんっ!」
仲間に蔑みの目で見られることは、この際、さほどの問題ではない。
氷河にとって、それは耐えられないことでも何でもなかった。

だが氷河は、自ら飛び込んだ生き地獄から逃れようと足掻いた果てに 瞬に無体なことをして、畜生道に堕ちるようなことだけはしたくなかったのである。
否、氷河には本物の地獄を怖れる気持ちすらなかったのだが、そんな氷河も、瞬に軽蔑され嫌われることだけは恐ろしかった。
氷河にとってそれは、生きて存在することを否定されることであり、未来を否定されることであり、また、現実の夢を失うことでもあった。
地獄に堕ちることさえ許されず、虚無の世界にひとり放り出されることと同義だったのである。

「瞬と一緒に寝れるの、おまえ、喜んでたじゃん」
「まさかこんなことになるとは思っていなかったんだ……!」
瞬と一緒にいられる時間が増え、瞬との距離が縮まり、瞬に頼られることに浮かれるあまり、どこの誰にでも容易に想像できるこの事態を、氷河は――呆れたことに 本当に――まるで想定していなかったのである。
氷河は今は、自分の浅はかさを心の底から悔いていた。

が、星矢たちは一向に、仲間の苦境脱出に協力しようという態度を示そうとしない。
友だち甲斐のない仲間たちを恨みがましい目で見やり――いちばん悪いのは自分だということはわかっていたのだが――氷河は思わずぽつりと呟いた。
「こんなことなら、瞬にあんな夢を見せるんじゃなかった……」

「夢を見せる?」
氷河のその呟きを、星矢は聞き逃さなかった。
自分が口をすべらせてしまったことに氷河が気付いた時には、後の祭り。
氷河が身を沈めていたソファの前には、星矢と紫龍が仁王立ちに立って、彼等の金髪の仲間を睨みつけていた。






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