ベッドのサイドテーブルの上にあるカレンダーつきデジタル時計の日付は、氷河の記憶にある昨日の翌日のものだった。 氷河の中には、昨夜の記憶もそれ以前の記憶も 欠けた部分はなく存在していた。 故に、この奇妙な現実は、一時的な記憶喪失等、氷河自身のトラブルに起因するものではない。 そもそもそんなことでは、瞬のあの豹変振りに説明がつかなかった。 決して引っ込み思案なわけではないのだが、滅多に自分の意見や要望を表立たせることなく、いつも少し引いた場所で、直情径行の気がある仲間たちの身を気遣っているのが、氷河の知っている瞬だった。 実の兄にすら、自ら馴れ馴れしい態度をとるようなことをしない瞬が、よりにもよって昨夜ひどい言葉で自分を突き放した相手に、まるで媚びを売るような態度で接してくるはずがない。 だいいち瞬はなぜ、服も身に着けずに、それが当たり前のような顔をして他人のベッドの中にいたのだ! それを突拍子のない考えだと自覚しつつも、氷河は、自分が自分の存在していた世界とは別の世界に来たのだとしか思えなかったのである。 SFで言うところの そういう構造を持つ世界において、人物だけが入れ替わった――のだとしか。 そして、入れ替わった人物は、状況から推察するに、どう考えても瞬ではなく氷河の方だった。 |