普通では考えられないほど自然に、その夜、二人は同じ部屋で眠った。
これまでがそうだったように、瞬はベッドでも 氷河の気に障ることを全くしなかった。

氷河に好ましく感じられる程度に羞恥の様を見せ、氷河に好ましく感じられる程度に怯え、氷河がそうであればいいと思っていた通りに それが初めての交接で、氷河が思っていた通りに、瞬は人肌に飢えていた。
氷河が好む通りに情熱的で、氷河の意図する通りに彼の愛撫に陶然とし、健気ともいえるような所作で氷河を受けとめ、もちろん氷河を満足させた。

何もかもが理想的すぎて、氷河はこの素晴らしい交わりすらも、瞬がその身に備えた 他人の望みを察知し応える才能の故なのかと、ある種の不安を覚えさえしたのである。

「どうしておまえはこんなに――」
何もかもが俺の願っている通りなのかと、自分の横で乱れた呼吸を静めようとしている瞬に尋ねかけ――だが、氷河はそうするのをやめた。
瞬のすることが何もかも心地良く感じられるのは瞬のせいではなく、瞬を好きでいる自分の心が勝手に、瞬のすることすべてを好ましく感じてしまっているだけなのだと気付いて。

愛してやれば、瞬は、愛することを覚えてくれるだろう――と、氷河は確信していた。
その感情はもともと、瞬の中にあふれるほどあって、瞬はそれを実感する術と発露する術を知らなかっただけなのだから。

「おまえは俺にとんでもなく愛されているんだぞ。それがわかっているか?」
馬鹿な質問の代わりに、今更ながらな告白をする。

瞬は一瞬泣きそうな表情になった。
だが、瞬は泣くことはしなかった。
剥きだしの肩をすぼめるようにして、氷河がこれまで見たことがないほど幸福そうな微笑を浮かべ、瞬は氷河に尋ねてきた。
「同じ言葉を僕が氷河に言ったら、氷河は信じてくれる?」

自分の幸運と幸福に仰天した氷河は、『もちろんだ』の一言を言葉にできるようになるまでに、4度も瞬きを繰り返した。






Fin.






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