以前は一人で使っていたベッドが妙に大きく広く見える。 氷河を部屋から追い出すと、瞬は、ベッドの上に上体を起こし、それからもう一度、今度は大の字になってベッドの中央に仰向けに倒れ込んでみた。 「わあ、広―い!」 無理に はしゃいではみたものの、それも長くは続かない。 「……馬鹿みたい」 自嘲して、瞬はすぐにベッドの左端に移動し、身体を小さく丸めて、自分の隣りにぽっかりと空いている空間に寄り添った。 何が不満なのか、氷河にどうしてほしいのかが わからない。 氷河と一緒に眠るのも、瞬は決して嫌いなわけではなく、むしろ好きだった。 氷河が言う通り、自分にはあの行為を行なうための資質があるのだろうとも思う。 でなかったら、氷河と自分の身体は異様に相性がよくできているのだ。 氷河に抱きしめられることの心地良さに素直に溺れてしまえたら、どんなにいいだろうと、瞬は夢想した。 初めて氷河と一つのベッドに眠った時のように。 だが、気持ちよく、不安もなく、どうしようもない幸福感だけにがんじがらめにされる あの時間の連続が、今の瞬は不安でならない。 違う接し方、違う愛し合い方があるような気がしてならなかった。 これが闘いの場でのことなら、自分がどう振舞えばいいのかを瞬は知っていた。 氷河の命に危険を及ぼす敵の攻撃から、彼を守ってやればいい。 そのために自分自身が生き延びようとも思う。必死で思う。 だが平時は――。 特に今の氷河は、彼が手に入れた 彼に都合のいい 実際、それをしなければ瞬と氷河は普通の友人同士と何ら変わりがない。 瞬は、彼に身体を提供することの他に 気のきいたことは何ひとつできない無能な人間だった。 そして氷河は、だというのに、その無能振りを褒めそやすのだ。 いっそ闘いが起きてくれないものかとさえ、瞬は思ったのである。 戦場で闘い、氷河の身を気遣っている時、瞬は、自分が氷河を好きでたまらずにいることや、生きていることを実感できた。 氷河も瞬の身を気遣ってくれる。 二人が初めて身体を重ねたのは、一つの大きな闘いの終結の直後だった。 自分たちは生き延びた、だが、いつ死ぬかもしれない――そんな思いに囚われながら、互いを求め合う行為は充実していた。 それは、生きる目的と生きていることを確認しあうのにはもってこいの行為だったのだ。 広いベッドの隅にひとりで小さく丸くなって、瞬は涙にくれた。 いったい何が、自分の心をこんなふうに変えてしまったのか、瞬にはわからなかった。 |