翌日、二人は、翼のない者たちの世界を支配する神のいる神殿に向かった。
そこには少女の姿と大人の目をした女神が一人いて、翼を持たない二人を迎えてくれた。
「翼狩りをやめてから、こちらの世界に来る者の数は減ったのだけれど――愛する者のためにこちらの世界の住人になろうと思えるのは、いちばん幸せなことね」
そう言って、彼女は、瞬と氷河に幾粒かの種を分けてくれたのである。

「こちらの世界で生きることを決めたあなた方に私が与えられるものはこれだけなのだけど――きっと幸せになってね」
それが、この世界に生きる者たちが神に与えられる唯一の、そして最初で最後の祝福だった。


氷河と瞬は、氷河が瞬を2年間待ち続けたあの場所に種を植え、家を作って暮らし始めた。
時折大きな嵐がきて、二人が作った家を壊そうとしたり、二人が植えた果樹や野菜を根こそぎにしようとしたりしたが、風雨に打たれながら二人はそれらを必死に守った。
小さな木に初めて、僅かに赤味を帯びた果実が実った時の喜び。
それはまだ未熟で甘酸っぱい実だったが、二人は笑い合いながら それを分けて食べた。

時々、河の向こうに、翼を持った幸せな子供たちの姿が見える。
瞬は彼等を可愛らしいと思い、懐かしくも感じた。

「戻りたいか?」
河の向こうの岸を見詰める瞬の姿に出会うたび、氷河は瞬に尋ねてくる。
彼に尋ねられるたびに、瞬は首を横に振った。
人に与えられる果実が甘いより、二人が育てる果実が甘い方がいい。
今は翼がない瞬は宙を飛ぶ代わりに背伸びをして、二人が植えた果樹の実を取った。
「僕たちの作る実がどんどん大きく甘くなっていくんだもの。次の実が楽しみだね」

瞬が手にした果実を見やり、氷河がほっと安堵したように吐息する。
「おまえは、この木の実より甘くなるのが早い。俺の丹精のたまものだな」
そう言って彼は、瞬が持っている果実ではなく瞬の唇に彼の唇を重ねてきた。

この世界で最も甘いものは氷河の唇で、だから自分はどんな嵐にも耐えることができるのだと、今では瞬もわかっていた。






Fin.






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