案の定 瞬の身を心配していた仲間たちに、瞬は公園で出会った子供の話をした。 見知らぬ子供とのやりとりを楽しそうに語る瞬に、彼の仲間たちは気を安んじたらしく、星矢などは、 「そのガキ、紫龍にそっくりじゃないか?」 と新しい見解を瞬に披露してくれたのだった。 もちろん、その夜、瞬は氷河の部屋に向かった。 「新しいことや初めてのことに挑戦するには勇気が必要だけど、勇気は希望があるから持てるものでしょ。もっと氷河を幸せにできて、僕自身も幸せになれるかもしれないっていう希望があるのに前に進まないのって、ただの臆病だよね」 昨夜までと違って、異様に克己心に満ち決然とした態度の瞬に、氷河が目を剥く。 「瞬……」 「今まで、ごめんなさい」 とはいえ希望に不安はつきもので、瞬はさすがにどこまでも強気を押し通すことはできなかった。 昨夜までの卑怯と臆病を負い目に感じていないわけでもない。 「ここに」 「うん……」 だが、氷河は、瞬の謝罪には何も言わなかった。 代わりに彼は、瞬のためにある彼の隣りの場所を指し示した。 自分のためにある場所に身を横たえた瞬の唇に、氷河の唇が重ねられる。 瞬の勇気を守ろうとするかのように、それは優しい感触のキスだった。 それでも、瞬の心臓は大きく速く波打ち始めたのだが。 「ぼ……僕が氷河の期待通りにできなくても、氷河は僕を嫌いになったりしないよね?」 「時々、こんなふうに期待以上のこともしてくれるが、おまえがおまえでいるというだけで、おまえはいつも俺の期待通りのおまえだぞ」 氷河の言葉に小さく安堵の息を洩らし、それから瞬はその腕を氷河の背にまわした。 氷河と二人で地球が回っていることを確認する行為は、瞬が想像していた以上に素晴らしく楽しく心地良く、瞬はもっと早くにこうすればよかったと、少し後悔したのである。 Fin.
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