瞬は本当はこんなふうに この行為に及ぶのは嫌なのだろう――と、氷河は思っていた。それはわかっていた。
瞬は あからさまに不快の表情を呈してはいなかったが、屈託なく喜んでいるようにも見えない。
しいて言うなら、瞬は不安をたたえていた。全身に。

「俺に触られるのが嫌なのか」
「そ……そんなことないよ……」
瞬は決して『嫌だ』とは言わない。
実際には、どう考えても嫌だと思っているはずなのに、瞬は決して その思いを言葉にすることはなかった。

「その辛気臭い顔をどうにかしろ。どうせすぐ、あさましく喘いで、自分から脚を開くくせに」
からかうようにではなく蔑むように そう言い、氷河は瞬の身体をベッドの上になぎ倒した。
「あ……っ!」
氷河の指や唇は、始めから異様なほど熱を持っている。
冷たすぎる氷に触れた時に熱いと感じるあの感覚を、氷河に触れられるたびに 瞬は感じていた。
瞬が身に着けているものを引き剥ぎながら、氷河自身はほとんど着衣のまま、瞬に覆いかぶさってくる。

氷河はいったい何に憤っているのか、なぜ氷河は優しくなくなってしまったのか、瞬にはその訳がわからなかった。
それでも瞬は――それでも、氷河に求められることは嬉しかったのである。
性急で過剰な氷河の求めに身体が悲鳴をあげても、氷河のしたいことを妨げようとは思わない。
なにより、氷河が言うように、氷河の態度にどれほど不安を感じていても、瞬の身体がすぐに彼を受け入れるための変化を始めることは事実だったのだ。

「氷河……っ!」
だが、やはり、氷河が考えていることを理解できないことはつらく、氷河の名を呼ぶ瞬の声は切ないものにならざるを得なかった。
哀れを誘うような瞬の声の響きに、氷河が唇を歪ませる。
どれほど乱暴な愛撫を加えても、まるで物のように扱っても、困惑し怯えている瞬の声は、氷河の手の下ですぐに艶を帯びてくる。
細い泣き声は甘い喘ぎに変わる。
それが氷河には苛立たしくてならなかった。

「あっ……あっ……ああ……ん」
どう考えても この獣じみた行為を不安に感じているはずの瞬は、加えられる無体な力をやわらかく吸いつくように受けとめ、絡みつき、自分を抱く男から得られる快楽を味わい尽くそうとしてでもいるかのように、氷河の背に細い腕をまわしてくる。
清楚な面立ちからは想像もつかないほど自然に、瞬の身体は氷河のために変わり、動く。
そうすることで瞬は自身の得る歓びを増幅させているようだった。
いったい瞬はこんなことを誰に教えられたのか――氷河は、どうしても その不愉快な疑念を生まずにはいられなかったのである。

「どっちがいいんだ、俺とその男と」
瞬にその声は聞こえていないようだった。
与えられる苦痛を快楽に変えることに、瞬は夢中になっていた。
そして、熱にうかされているように、氷河の名を呼び続ける。
瞬が問われたことに答えているのではないことは わかっていたが、氷河は瞬の唇から発せられる自分の名が空々しく聞こえて仕様がなかった。

「嘘をつくな」
瞬を黙らせるために、意識して乱暴に、無体なほど奥まで、瞬の中に自身を突き立てる。
悲鳴をあげて身体をのけぞらせた瞬は、だが、すぐに、その唇から濡れた喘ぎと甘い息を吐きだしし始め、それはいつまで経っても尽きる気配がない。
瞬にまとわりつかれ絡みつかれ、その身体の中に取り込まれていくような錯覚を覚えながら、氷河はそれでも、どうしても、自分が瞬に受け入れられていると思うことができなかった。






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