「ウチの店で働きたいのなら、ホールじゃなく、バックに来てもらえないかな」 事態を穏便に収めたいマネージャーが、アテナの聖闘士たちに 多分に引きつった笑顔を向けてくる。 氷河は下目使いに彼を睨み、それからその視線を客席のあるホールの方へ巡らせた。 「俺たちは客だ。金さえ払えば文句はないだろう。この店のナンバー1を指名する」 「しかし――」 これはやはり他店のホストの殴り込み、いいところで敵情視察と察して、マネージャーは顔を歪めた。 彼は、この危険な3人組を早々に店から追い出したかった。 が、周りを見渡すと、どう見ても彼の部下たちは、見てくれも迫力もこの闖入者たちに見劣りする。 口先だけで生きているこの店のホストたちでは到底この3人の来客に太刀打ちはできないと判断したマネージャーは、彼の横に立っていた若いホストに、 「瞬を呼んでこい。こいつらを追い払わせろ」 と耳打ちをした。 が、マネージャーの指示を受けたホストが頷くより、瞬がそこに駆けつけてくる方が早かったのである。 氷河の極限まで燃え上がった小宇宙は、いやでもその存在を瞬に知らせるものだったのだ。 「氷河! 星矢に紫龍も!」 「し……知り合いか?」 ホストクラブの客としては いかにも不自然な3人組が瞬の知り合いと知って、マネージャーがほっと安堵の胸を撫でおろす。 瞬の知人だというのであれば、3人の来訪者の迫力も、彼等の見てくれのいいことも、彼には納得がいった。 そして、瞬の友人ならば、彼等はこの店に敵意を抱いてやってきたのではないだろうと、彼は勝手に決めつけることができたのである。 「僕の仲間なんです。やだ、僕の仕事の視察にでも来たの? 僕、真面目に働いてるよ」 「瞬……ここはどう見ても風俗店じゃないか。こんなところで真面目も糞も――」 無邪気に仕事熱心をアピールしてくる瞬に そう言いかけた氷河は、だが、途中で自らの言葉を途切れさせた。 どう見ても風俗店で――生活のために必死に働いている者がいないとは限らない。 氷河にも『職業に貴賎なし』という認識はあった。 だが、ここでの仕事は瞬向きの仕事ではないという確信も、氷河の胸中には確固として存在していたのである。 「では、あちらの席でお待ちください。ただ今、瞬は指名待ちが3人いて、かなりお待ちいただくことになると思いますが」 氷河たちを危険な人物ではないと判断したマネージャーが、気を取り直したように、氷河たちに空いているボックスシートを指し示す。 だが、氷河は彼に頷くことはしなかった。 「俺たちは瞬の仕事振りを見に来ただけだ。サービスはいらん。瞬と同席させてもらう」 「いや、それは――」 さすがにそれは受け入れかねて口ごもったマネージャーに、星矢が緊張感のない声で提案する。 「氷河は顔だけは綺麗だし、同席した方が瞬のお客も喜ぶんじゃねーの? 俺たち、今日だけ この店のホストの振りするからさー」 「しかし、それは――」 それでも渋る様子を見せるマネージャーに、紫龍は親切顔で忠告した。 「この男に逆らうのはやめた方がいい。この毛唐は瞬の100倍も凶暴だぞ」 そして、氷河はといえば、マネージャーの許可を受ける前に、瞬の腕を引いて、瞬がいた席に向かって すたすたと歩き出していたのである。 |