ところでアテナの聖闘士の本業は、恋に命を賭けることではなく、アテナに害を為そうとする敵と闘うことである。
それが地上の平和を守ることにつながると考え、命を賭してアテナの聖闘士たちは闘うのである。
翻ってアテナに敵対する者たちは、アテナを滅ぼし去れば、彼等にとっては真の平和ではない現在の平和を断ち切ることができると考えて、アテナの聖闘士たちに挑んでくる。
人間の価値観が一様でないために、アテナの敵が尽きることはない。

その日も、彼等はやってきた。
聖域にいないアテナの方が倒しやすいと考える者が多いのか、城戸邸の庭が戦場になるのも これが始めてではない。
敵の弱点を突こうと考えるのは、自分に自信がない者たちのすることである。
自らに自信のある者なら、堂々とアテナの公邸である聖域に乗り込んでくるか、あるいは最初から自身の勝利を確信して戦いそのものを余興と考え、自らは動かないだろう。
だが、その日、アテナの私邸である城戸邸に乗り込んできた敵は強かった。

「くそっ。こいつら、神でもないのに、なんでこんなに強いんだよ!」
これまで星矢たちが出会ってきた敵たちの中には、青銅聖闘士の攻撃をたやすく いなしてしまう者も数多くいた。
が、今日の敵は、そこまで青銅聖闘士たちの力に優越していたわけではなかった。
星矢たちの拳をよけ切ることもできなければ、跳ね返すこともできない。
それでも彼等はアテナの聖闘士たちの拳に決して屈することがなく、幾度でも立ち上がってくる。その様子を繰り返し見せられて、星矢は彼等に苛立ちのようなものを感じ始めていた。

「神じゃないからだよ。必死なんだ。満腹のライオンと飢えたネズミと、どっちが恐いと思うの」
星矢の流星拳を2度まで受けてなお 立ち向かってこようとする敵の手にチェーンを放って 瞬がその動きを封じる。
敵は瞬の鎖から逃れようとはせず、むしろ 今度はアンドロメダ座の聖闘士を新しい敵とみなして、瞬に攻撃を仕掛けてきた。
連日 氷河との“いちゃいちゃ”にかまけている割りに、瞬が至極冷静にその敵を倒す。
命を奪ってしまわない程度に手加減を加えることも、瞬にはしっかりとできていた。
こういう敵にとどめを刺さないことの危険を承知した上で、瞬はそういう闘い方をする。
いつもの瞬の闘い方だった。

「ああ、そうだったな」
その間に態勢を立て直して立ち上がった星矢が、拳で口許の血を拭い、瞬に頷く。
そして、星矢は――星矢もまた――再び敵に対峙した。

それは、アテナの聖闘士たちが、これまで幾人もの神たちに勝ってきたことの理由でもある。
“飢え”なら、青銅聖闘士の方が強いのだ。
アテナの聖闘士たちがアテナの掲げる平和を信じる気持ちは、その実現を願う気持ちは、この地上に存在するどんな力よりも強く、その力は他の何ものにも決して屈しない。
『だから負けるはずがない』とは思わなかったが、ともかく彼等は負けるわけにはいかなかった。






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