「瞬のオトモダチをやっているのも、なかなか大変そうだな」
ぐったりしている星矢に、紫龍がウーロン茶のペットボトルを差し出す。
紫龍は、とんでもない災難に見舞われた仲間に いたく同情しているようではあったが、その問題の解決策までは持ち合わせていないようだった。
たとえ紫龍がそれを持ち合わせていたとしても――有効な説得法を心得ていたとしても――恋が順調に進展して浮かれている人間に、はたして聞く耳があるものかかどうか。
事実、瞬は、自分がなぜ星矢に怒鳴りつけられたのかも理解できていない様子で、首をかしげかしげしながら氷河の許に戻っていってしまったのである。

情けなさを極めた顔をして、差し出されたお茶を受け取った星矢は、それを一口飲み込んでから、大きな嘆息を洩らした。
「しかし、氷河の奴、よくもつな。まだ一度も最後までいってないんだろ」
第三者が話を聞いているだけで耐えられないことを、実際に行なっている人間は、どうやって耐えているのか。
星矢には、その事実が、いっそ奇跡のように思えていた。
無論、それを“愛の奇跡”などという美辞で飾る気にはなれなかったが。

「だが、この調子だとそろそろだろう」
疲れきっている星矢に、同情に耐えない顔で頷きつつ、紫龍が呟くように言う。
そう言われて初めて、星矢は自分が早まってしまったことに気付いたのである。






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