(そんなことを)するかもしれないぞ――。 氷河の言葉が弁明ではなく、自身の罪を肯定する仮定文であったがゆえに、星矢は、氷河にかけられた嫌疑を忘れ去ることができたのである。 本当に氷河がそんな不埒な行為に及んだのであれば、彼の口からそんな仮定文が出てくるはずがないのだ。 となれば、この場合、非があるのは瞬の方ということになる。 そして、瞬の“非”は責めるに遠慮のいらない“非”だったので、星矢は安心して瞬を責め始めた。 「おまえ、だから、焦らすのもほどほどにしとくべきだったんだよ! やりたい盛りの青少年が、いつまでも お手々つないでちいぱっぱなんて、今時流行らねーんだから!」 仲間の無実を確信できた星矢の声は弾んでいる。 が、瞬の耳には、星矢の声は届いていなかった。 たった今まで氷河の姿があった空間に視線を投げ、星矢の方を見ずに独り言のように言う。 「氷河、今、何て言った……?」 「おまえをゴーカンするかもって」 「冗談だよね?」 「真顔だったが」 星矢と違って 瞬を焚きつけるつもりのない紫龍は、客観的な事実だけを言葉にした。 瞬には、星矢の非難より、その客観的事実の方がこたえたらしい。 彼は、頬を青ざめさせた。 「で……でも、氷河は、これまで一度もそんなことしたいなんて言ったことはないし、僕だってそんなこと――」 一瞬言葉を途切らせてから、まるで自分自身に言い聞かせるように、瞬はその先を続けた。 「するつもりもないし、考えたこともない」 星矢は、瞬のその発言をさほど不自然なものとは思わなかった。 なにしろ瞬は『この世で最も清らか』を売りにしている人間である。 “そんなこと”の実践について考えたことがなくても、おかしなことではない。 誰かが気付かせてやらなければ、瞬が“そんなこと”への考えが及ばないのは当然だとすら、星矢は思った。 そして、だからこそ、自分が瞬に気付かせてやろうと、星矢は決意したのである。 「したいって言われたことがないったって、したくないって言われたわけじゃないんだろ。したいのが普通だから、氷河はわざわざ言わないだけに決まってるじゃん。別にいいじゃないか。おまえは氷河が好きなんだし、氷河もおまえを好きなんだから。俺、そーゆーのは全然気にしねーぜー。おまえら二人だと、そーゆーことになっても、あんまり違和感ねーし」 「す……好きだから――って、それとこれとは話が別でしょう」 「へ……?」 瞬の言葉に、星矢は正直 驚いたのである。 星矢は、“それ”は、好きだから行なう行為なのだと思っていた。 だが、瞬は、そう考えてはいないらしい。 「話が別――って、そうなのか?」 「そうだよ!」 両の拳を握りしめ、瞬がきっぱりと断言する。 星矢は、思わず肩をすくめた。 つい、言わずにいた方がいい言葉が、その唇をついて出る。 「氷河もそうだといいな」 途端に、瞬の頬からは血の気が失せた。 |